2016年11月01日

ざんげの吟詠「少年易老学難成」

DSC_2017.JPG

或る春の日の出来事である。
大学の詩吟サークルのコンパがあった。何かの打ち上げだったのかコンパの中身は記憶に定かでないが、例の如く安酒で大いに盛り上がったその帰り道の出来事である。
帰路が同じ方向の一年先輩のYさんと中央線O駅から電車に乗った。童顔で縮り毛のそのY先輩とは妙に気が合っていた。酔った二人は春の陽気の所為もあってか良く喋って大声で笑った。夜も遅い時間、客もまばらな車内に二人の声はさぞ響きわたっていたことだろう。やがて電車はY駅に停車した。いきなりY先輩が私の上着の袖を引っ張ってホームへと引きずりおろした。
なんだ、なんだと訝る私に「オイ一発やろうぜ!」と先輩が言う。
私はすぐに先輩の言葉の意味を理解した。ハイッと返事した私に、「上だッ!ウエ、ウエ!」と叫びながら先輩はホームの階段を駆け上がっていく。
今記憶をたどってもその場所がどこなのか、はっきりとは甦っては来ない。まさかホームの屋根の上ではなかったと思うが、いずれにせよ駅舎のかなりの高い部分であったことは間違いない。

やがて先輩と私は両足を開き、両手を腰の後ろで組んで腹に力を入れた。
先ず先輩が「朱熹(シュキ)作 偶成(グウセイ)」と叫んだあと二人で夜空に向かって大声を発した。

「少年老い易く学成り難し 一寸の光陰軽んずべからず
 いまだ覚めず池塘春草の夢 階前の梧葉已に秋声」

つづけて「釈月性(シャクゲッショウ)作 壁(ヘキ)に題す」を行く。

「男児志を立てて郷関を出づ 学若し成るなくんば死すとも還らず
 骨を埋む豈惟墳墓の地のみならんや 人間到る処青山あり」

春の夜空に向かい大声で吟じた二人は、満足げに顔を見合わせた。

しかしその後のくだりが何とも書くに堪えないのであるが、二人は酔った勢いとは云えその場所からはるか下方の線路に向かって、恥ずかしさもおそれず堂々と放尿の行為に及んだのである。
その後二人は駆け付けた駅員にすぐに取り押さえられ、駅の事務所に連行されたのは云うまでもない。
こんこんと長時間の説教を受け、始末書を書かされる羽目になったのである。

思うに今から半世紀も前の事であるからその程度で済んだのだろうけれども、今の時代ならおそらく警察官に逮捕されてネット上では大騒ぎになり、挙句の果ては大学を追放されていたであろうことは想像に難くない。

卒業してからY先輩とは疎遠になってしまったままであるが、あの春の日の珍事を記憶されているだろうか。
私は五十年の歳月が過ぎた今、図らずも「ざんげの態」に至ったのであるが…。(その節は関係者の皆々様にたいへんなご迷惑をおかけいたしました。シュン…。)


DSC_8762.JPG

北の街ではもう悲しみを暖炉で燃やしはじめてるらしい

理由のわからないことで悩んでいるうち

老いぼれてしまうから

黙りとおした歳月をひろい集めて暖めあおう

襟裳の春は何もない春です

          「詞 岡本おさみ 曲 吉田拓郎 -襟裳岬ー」




にほんブログ村


エッセイ・随筆 ブログランキングへ
posted by いこい at 02:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック
最近のコメント
最近の記事